不器用の一心に勝る名人なし 〜宮大工の智恵

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先々月に続き先日、自宅にて本部幹部会の放映会を行なった所、自分を含め5名で見ることができました。内1名は自分の友人が参加してくれました。何年も前に入決した友人で、視聴前に数年ぶりに一緒に題目を唱えることができました。その友人は用事のため、途中で帰りましたが、一歩前進でした。これも一生懸命、10時間に何度も取り組んだ、一つの結果だと思います。

 

今回の記事では『棟梁(とうりょう)』という書籍を取り上げてみます。この本は昔読んだ「名字の言」に出ていたものです。当代随一の宮大工の棟梁が、語った聞き書きを、書籍化したものです。

 

小川三夫著『棟梁』

 

宮大工(みやだいく)とは寺社建築を手がける職人です。なかでも聖徳太子が建立した法隆寺は、1400年以上建つ世界最古の木造建築であり、世界遺産にも登録されています。宮大工は一般の大工が驚嘆し舌を巻くほどの技量を持っています。それは例えば、宮大工の鉋(かんな)くずが、顔が透けるほど極薄で均一なことにも現れます。それは徹底して刃を研がせるという、基礎鍛錬から身に着けていくそうです。

 

さらに、木の使い方一つをとってみても、一般の家屋を建てる大工は、加工のしやすさから材木を面(ツラ)で合わせ組んでいくけれども、これに対して宮大工は芯墨(しんずみ)を打つことによって、常に木の芯によって建てていくといいます。これにより、一本一本の木の癖(くせ)や性格を活かし、一本一本が荷重を総持ちで支え合い、重さを上手に分散させ柱に伝え、重さを利用して建っているのです。

 

そうした千年、二千年と伝承されてきた物作りの技・心の他に、宮大工の棟梁の弟子の育て方にも、人材育成の学ぶべき智慧があります。私が昔、「名字の言」で読んだ文章にくぎ付けになったのは、以下の文言(趣意)でした。当代随一といわれる宮大工が、弟子をとる時に重視することは、「不器用であること」だと言うのです。器用な人はあるレベルまでは覚えが早いが、仕事を甘く見てしまうので、結局のところ「伸びしろ」が小さいからだと。

 

物覚えが早くて、何でもほかの者より速いやつがいるよ。でもそういうやつは何をさせてもひと通りはできるが、ずば抜けたものがないな。(中略)ある段階までは速いスピードで行ってしまうから、油断というか、仕事を甘く見てしまうんやな。

 

(中略)
その継ぎ手や仕口を作るのは、切れる刃物と工人の仕事に対する思いや。思いを込めた仕事となったら、器用な子には難しいんだ。器用な人は耐えることが不得意なんだな。自分はできるし、できると思っているから器用にその方法を見つけ、ここでいいという線を読んでしまう。だからどうしても、耐えて耐えてもっと深いところまで行くということができ難いんだな。

 

うちあたりでは「不器用の一心」がいいな。急がなければ不器用な子でも一つ一つ納得がいくまでやって階段を上がっていくんや。鵤工舎(いかるが・こうしゃ)はそれを待てる。こうした子は上手になってくれたら強いわ。安心してその仕事を任せられる。根が不器用やから嘘をつかないし、仕事もそうや。(中略)よう西岡棟梁も言ってたな。「不器用の一心に勝る名人はない」と。(『棟梁 ~技を伝え、人を育てる』/小川三夫著/文春文庫)

 

(中略)
責任というのは失敗したときにわかるんだ。その時の態度が大事なんだ。失敗を他人に置き換える人がいるな。これはだめや。他人の失敗も自分ごとのように受け取る人がいる。これも大事やが本当の痛みかどうかだ。失敗を素直に認めて反省する人、まずはこれや。責任を感じ、責任の重みがわかる人にならないかん。責任の重みがわからんやつもおるんだ。こういうのは失敗が教訓にならんのだ。失敗こそが進歩の基礎や。

 

成功や褒められているだけでは足元は危ないもんや。失敗を踏み固めて進んだら確実な基礎ができる。やっぱり覚悟があるかないかだな。(中略)覚悟をつくるということは追いやらなくちゃいけねえや。相手も追いやるが、こっちもそうや。相手の覚悟を求めるなら、こっちはその倍の覚悟をせなならん。(同書)

 

 

私事ですが、約20年にわたって、子どもや大人にものを教える仕事に携わりました。子どもには学問の基礎を、大人にはコンピュータの操作をお教えしました。個別指導が主でしたが、全部で数百人の生徒に関わったと思います。創大通教・教育学部を卒業後8年間、教員を目指した時期もあります。そのためでしょうか、教育や人材育成に関して、一定の関心を寄せてきました。

 

宗教の次元では劣った、爾前権経の建築物ですが、物づくりの名人としての宮大工に学ぶことは多いと思います。自分も本書を未だ読了していませんが、興味を持たれた方は、書籍の他にドキュメンタリー映像等も出ていますので、ご覧になるとよいでしょう。

 

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